愛し、苦し

原千




愛しい苦しい、逃げたい逃げたくない、会いたい会いたくない、自分がわからない。



「またお出かけですか?」
「ああ、ちょっとな。」


私は原田さんに避けられている、それもあからさまとでもいうくらいに、最近は目を合わせて話してくれなくなった。
原田さんが島原へ行くのが嫌というわけではないけれど、さすがに行きすぎているのではないかとも思ってしまう。
日に日に土方さんの機嫌は悪くなる一方だし、お酒のとり過ぎは身体にも悪い。
それに、私は一体何かしたのかなと不安になってしまうし・・・。
ううん、実際何かしたのかもしれない、原田さんに避けられてしまうような悪い事、私が気付いていないだけで。



「左之、お前千鶴ちゃんの事避けてるだろ。」
「なんでそう思うんだ?」
「今日出てきた時、千鶴ちゃんの方一度も見なかっただろ、少し前なら無駄に色振りまいて頭まで撫でてやってたってのによ。」
「・・・そういう所だけ勘がいいんだな、てめぇは。」
「そういう所だけは余計だ、それよりもよ、いいのか?」
「・・・ああ。」



事の起こりはひと月ほど前の事。
巡察中、原田は千鶴に似合いそうな簪を見つけた。
前に一度千鶴が浴衣を着た事を思い出し、新選組とかかわりになることすらなければ今頃ああやって普通に生活しているのかと思うと、女が一番輝く時期を男の恰好をさせ 監視している事などあっていいのかと罪悪感すら覚える。
千鶴の性格ならば新選組の内情を話す事などないと思う、否、絶対にありはしない。
千鶴は今こそ嫁に行き時、なればこそ簪の一つでも買って女に戻れた時にでも身につけてもらえればそれで満足だと思った。
原田は可愛い妹が出来たとでもいうように千鶴を見ていた、だから可愛くて仕方がないだと、なんでも買ってやりたくなるのだと思っていた。
自室に戻り今日買った簪を見れば、それをつけて笑う千鶴の姿が容易に想像できた、そしてふと原田はある事に気付く。
先ほどから想像する千鶴の隣には、必ずと言っていい程自分が居る。
新選組にいるうちは男の恰好を強いられる、もちろん簪など付けるわけにもいかない、女の恰好に戻る時自分は隣にいる事などありえないのに、 先ほどから浮かぶのは・・・と、そこではっとしたように口元を押さえた。

「嘘、だろ・・・。」

それに気付いてしまえば感情が動くのは早いもので、千鶴を自分のものにしてしまいたいと思うようになった。
自分以外の男と話しているのを見ているだけで自分の中に黒い何かが渦巻いていく。
存外自分は女々しい男なのだと思い知らされる、今までにこんな体験がなかったと言えば嘘になってしまう、しかし今度のそれは今までと比べものになりはしない。
だがそう思えば思うほど、罪悪感も強く感じ始めるようになった。
もうここから逃がしてやりたいと思う反面、ずっとここに閉じ込めておきたいとすら思ってしまう、そんな事が許されるはずがないのに。
自分の感情と戦っていくうち、千鶴と顔を合わせる事すら辛くなった、自分のものにならないのならすべて壊したくなる、ここまで自分を狂わせる存在を殺めてしまいたくなる。
幸せにしてやりてぇんだ、俺が。
笑顔にさせてぇんだ、俺が。
泣きたいなら傍にいてやりてぇんだ、俺が。
俺が・・・。
避けずにはいられなかった、これ以上近くにいたら壊しちまう、少し前は妹みたいに思っていたのに、今は女にしか見えない。
だからこの感情が少しでも小さくなるまで俺は、あいつを避け続ける。



「新八、お前は人を殺したいほど愛しいって思った事はあるか。」
「ねぇよ、だがもしそれくらい好きになる女がいたら、そいつが好きなようにさせてやりてぇ。」
「縁を切ってくれって言われたらどうする。」
「潔くそれを認めてやるよ、自分といて幸せにしてやりてぇってのに不幸にさせちまう、それじゃ本末転倒だからな。」
「・・・ああ、俺もそう思ってたよ。」



それはもう過去の事。