幼馴染を好きになってしまうと、やっぱり幼馴染なのだと実感させられる事が好きになる前より多くなる気がする。
これは私の見解であって一般的な見解ではないのかもしれないけれど。
「おめでとう平助君」
「ありがとな、千鶴!」
平助君が島原女子の女の子と付き合う事になった。
いまさら告白しても遅いし、絶対に好きだとも言えない。
この二人に協力していたのは他の誰でもない、私なのだから。
いくら幼馴染で仲が良くても変化は怖いもの。平助君が恋愛対象として好きだと気付いた時、最初に感じた事はこのままの関係が保てなくなるんじゃないかという不安。
家族とか兄妹とか友達とか、そういう意味での好きならいままでも言っていたしこれからも言う。
だけど恋愛としての好きはこれまでもこれからも言えないと思う。平助君にはそういう意味での好きという感情があるという事を必死に隠してきた。
唯一この事を知っているのだとすれば薫くらい。薫は私の事ならなんでもお見通しらしい、その逆も言えるけど。
「本当に千鶴はお人よしだよ」
「だっ、て……」
薫の部屋、薫に抱きつき声をあげながら泣く私はきっと薫にとって邪魔もの以外のなにものでもない。
なのに何も言わず抱き締めてくれるから私はどうしても甘えてしまう。
「まったく誰に似たんだか」
「ごめ・・・ん、薫」
「しょうがないだろ、お前が藤堂の事を言えるのは俺しかいないんだから」
ぽんぽんと優しく頭を撫でてくれる薫の優しさに私はもっと大きな声で泣きだしてしまった。
次の日は案の定目が腫れてしまい、はっきり言って学校に行ける状態じゃない。
あんなに遅い時間まで泣くんじゃなかった……。
結局昨日は泣き疲れて寝てしまったのだけれど、起きると薫の部屋にいたはずの私は自分の部屋のベッドに寝ていて、正確に寝た時間は覚えていない。けれど確実に夜中の二時はまわっていたはず。
また薫に迷惑かけちゃった……今度しっかりお礼しないと。
そんな事を考えていればトントンとノックの音が聞こえた。
「いるよ」
ガチャリと開いたドアの先にいたのは思った通り薫、それ以外の人が入ってくるなんて事は滅多にない。
「うわ、ひどい顔。俺の妹じゃないみたい」
開口一番悪態をつかれようと、これは自分のせいだし薫に迷惑をかけてしまっているしで反論する気になる事はなく、逆に謝りたくてしょうがなくなってしまった。
「ごめんなさい……」
「あーあ、そんな顔じゃ俺の妹だって言えないじゃないか、千鶴今日は休んでね。そんな顔で俺の妹だなんて名乗られたらたまんないからさ」
他から見れば一見酷いと思われてしまうその言葉は薫なりの優しさだと痛いほどわかってしまう。
私はきっと昨日の今日で平助君の顔を見れない、いまの涙腺の緩さでは顔を見た瞬間に泣いてしまう。
「藤堂や他の連中には風邪だって言っておくから今日中にその腫れを引かせてよ」
「ありがとう薫、今日お夕飯は薫の好きなもの作るね」
「……ハンバーグ」
「うん!」
それだけ言うと薫は私の部屋から出ていった。
午前中、冷たいものを目に当てていたらだいぶ目の腫れはましになった気がする。
だけどずっと冷たいものをあてていたせいか、少し頭が痛い。
「どうしよう……」
スーパーのチラシをさっき見たけど、タイムセールは四時からで今は十二時過ぎ、掃除や洗濯も終わってしまってすることがない。
ちょっとだけ寝ようかな、三時くらいに起きれば問題ないと思うし。
私は、うん。と一人で納得して寝室に向かった。
ベッドに横になれば昨日の睡眠時間が少なかったからか、睡魔はすぐに襲ってきて夢の中に入っていった。
気持ちのいい夢の中にいる時、ガチャリと扉が開いた音がしたけれどそれはきっと気のせいだろう。
しばらくして、手の自由が利かない事に違和感を覚え目を覚ました私は一瞬時が止まる感覚に陥った。
「へ、平す、け君……」
「ん?……ああ、おはよう」
「お、おはようじゃ、なくて……どうしてここにいるの?」
いきなり目の前に現れた彼、泣く泣かない以前に今の状況を整理するので精いっぱい。
いくら冷静に考えろと自分に訴えかけてもますます混乱するばかりで頭の中はもう爆発寸前。
「驚かせちまったなら悪い、でも俺昨日のあの後千鶴の様子がおかしくなったと思って放っておけなくて……」
千鶴が茫然としている中平助は理由を語る、何故かとても切なげな表情で。
「メールもしたけど返ってこないし、薫には千鶴は風邪だって言われるし……直接行くしかないと思った」
握ったままの手に力がこもり、平助は千鶴の目を覗きこんだ。
「心配で仕方がなくて何も手につかなかった」
こんな事を言われて嬉しくなってしまうのはおかしいかな。
でも、嬉しくてしかたがない、彼女がいるのにとか迷惑をかけたとかそういう罪悪感よりも……ごめんなさい、平助君、でも嬉しいの。
「メール返せなくてごめんね、昨日から携帯見てなくて……風邪も大したものじゃないから大丈夫」
「千鶴らしいよな、それじゃ携帯の意味ねぇって」
安心したように笑った平助につられて千鶴も笑顔になる。
平助君の事はまだ好き、でも好きだからこそ……。
「えっとね平助君、心配してくれてありがとう。でもこういうのはダメだと思う」
長く想っていた分、ふっきれるのは時間がかかるかもしれないけど、平助君が幸せなら私はそれでいい。
「なんで?やっぱり心配されるのって迷惑か?」
「ううん、嬉しかったよ。だけど平助君の彼女に悪いよ、私はただの幼馴染だし……こうやって部屋にくるのももうやめておいた方がいいんじゃないかな」
そう言って千鶴は繋いでいた手をゆっくり離した。
その時の平助の表情がすごく悲しそうで、千鶴は抑えた感情がまたでてきそうになるのを必死で堪える。
「千鶴・・・ごめん、俺もう無理」
「え?・・・きゃあ!?」
一度は落ち着いた千鶴の脳内がまた混乱しだす。
平助が千鶴の上にのかってきた。しかもベッドの上、そんな状況で混乱しないなんて事できるわけがない。
「へ、へへ、平助君!?」
裏返った声で平助を呼ぶ千鶴に一度だけ切なげな頬笑みを見せると、そっとキスをした。唇に。
そしてそのまま千鶴をぎゅっと抱きしめる。
何がどうなっているの?
私は平助君が好きで、でも平助君には彼女出来た。
だけど今平助君は私にキスをした、唇、だった。
そして今私は平助君に抱き締められている。
どうして?なんで?わからない。
「このまま聞いて……もう辛いんだ、俺」
俺は最低だよ、こんな風に千鶴にキスして。
なんで昨日本当の事が言えなかったんだよ……あの子とは何もないって、告白を断ったんだって。
「千鶴にただの幼馴染だって言われたくなかった」
怖かった、千鶴を幼馴染じゃなく一人の女の子として見始めた瞬間から。
関係が壊れたらもう千鶴の隣にいられなくなるんじゃないかって。
千鶴は俺の小さな変化も見つけてしまうから余計に怖くなった。
見つかってはいけない感情、だから俺は必死でその事を隠し続け、隠し通すために俺は千鶴に女の子を紹介してなんて言ってしまった。そんなこと微塵も思っていなかったのに。
「あの子を紹介された時、やっぱり千鶴にとって俺はただの幼馴染なんだなって自覚した。でも、自覚すんのと直接言われんのじゃショックの大きさが違ったっつーか」
千鶴にこのまま一生ただの幼馴染だなんて思い続けられるくらいならいっそ……。
「でも、平助君と付き合うことになったんじゃ……」
「断ったよ、俺は千鶴が好きだからって」
「なっ!?」
抱き締めているからわかる、千鶴の体温が上がった。
「でも千鶴に紹介してくれって言ったのは俺だし、振ったなんて言ったら嫌われるんじゃないかって怖かったんだ。女の子として好きだから」
ついに言ってしまった、千鶴の事が好きだと。
もう後戻りはできない。
「……私もね、平助君が好きだよ。男の子として」
言ってしまった、もう我慢できなくて。
好きだって言われた時、もう隠すのは無理だって思った。
好き、平助君が好き、誰よりも何よりも。
一回溢れてしまえばもうこの感情を止めることはできない。
「千鶴……」
平助は抱き締めて顔の見えない状態から少し起き上がり、千鶴としっかり目を合わせた。
「好きだ。何回でも言う」
「……うん、私も好き」
二人は笑いあうとお互いの感情を再度確かめるかのようにキスをした。
「そういえば平助君」
「ん?」
「どうして女の子紹介してって言ったの?」
「あ、ああ……千鶴の事が好きだって隠すためかな」
俺はすぐに見つけられてしまうから。
かくれんぼ-隠恋慕-
その後、うたたねしてしまった二人は帰って来た薫の怒声で起きることになり、小一時間ほど説教されたとか。
「千鶴、ハンバーグは?」
「あ……」